『帰ってきた魔界村』で憤怒の咆哮をあげろ。

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序文 

 

1位「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ゛あ゛!!!」
2位「お゛い!!!!」
3位「クソアホ魔法使い!!!!!」

 

 文頭から謎のランキングで申し訳ないが、こちらは今週末の私の発言回数ランキングだ。普段は理性的でインテリジェンスな発言しかせず、紅茶を嗜みながら岩波文庫を読んで物静かに暮らしている私だが、ゲームをしているときだけは別だ。この週末、私は癇癪を起こして奇声を発し、唸る獣となって地団太を踏むだけの理性から最も遠い存在であった。

 

 それはなぜか、アイツが帰ってきたからだ……魔界村が。

 

 『帰ってきた魔界村』が2021年2月25日に任天度switchで発売されたのだ。簡単に説明するとこれは昔ながらの横スクロールアクションゲームであり、「帰ってきた」とあるようにこちらは1985年にアーケードで稼働した「魔界村」というゲームのリブート作である。まあ画像を見て貰えば一発で理解するだろう。こういったゲームだ。

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帰ってきた魔界村 最初のステージである。真ん中に居るのが主人公であり操作キャラであるアーサーだ。

 

 見た目通り…………古臭いゲームだ。2D横スクロールアクションで操作は移動とジャンプとショットのみ、攫われた姫を助けるために騎士が化け物を打ち倒して進むというストーリー、祖父の家の仏壇みたいに古めかしいゲームであることは否めない。

 

 さらにこの魔界村、シリーズを通して「難易度が高い」ことが特徴と言える。横スクロールと聞いて「スーパーマリオブラザーズ」を連想した人もいるだろうが、それらとは一線を画す難易度の差がある。まず主人公の性能から違う。マリオの性能を飛行機とするならば、アーサーは子供用自転車みたいなものだ。もちろん補助輪付きの。

 

 マリオには走りながらファイアボールを撃てるしジャンプの高度だって調整できる。しかしアーサーにはそれがない。しっかりと大地を踏みして立ち止まってヤリを投げるし、ジャンプは垂直ジャンプか前後のジャンプだけ、落下中に十字キーを入れても少しだって動けやしない。

 

 敵も凶悪だ。死神はアーサーより早い速度で走り命を狙いにくるし、大男は高タフネスでヤリを何発も打ち込まないと倒せない。なのにアーサーは一撃食らって鎧が剝がれればパンツ一丁のヒゲ男になってしまい、もう一撃食らうと死体どころか即しゃれこうべになってゲーム・オーバーだ。

 

 ではそんなロートル・ゲームが今更何しに来たんだ? 今や大勢の人間がゲームを通じてインターネットに接続し、見目麗しいウマを育てて運動会で走らせたり、ジブラルタルのウルトで高空から爆撃しているというのに、今更甲冑を着込んだアーサーでヤリやたいまつを投げる必要なんてあるのか?

 

 …………それは、ある。

 

 というわけで今日はゲームの話だ。『帰ってきた魔界村』の紹介をする。

 
1.最高難易度を選ぶ呪い

 買ったゲームを始めて起動する。見覚えがあったりなかったりするロゴが現れては消え、ティザームービーで見たオープニング映像が流れ、タイトルロゴが出現する。LOAD GAMEは薄字になっており選べない、初めて起動したのだから当たり前だ。オプションを少し触ってNEW GAMEを選択、そして次の瞬間、選択肢が出現する。

 

VERY HARD
HARD
NORMAL
EASY

 

 こういったシーンで私は反射的に最高難易度を選択してしまう。それは私の生い立ちに問題がある。最高難易度を選ばなければ「おまえはゲームですら挑戦できないみじめな腰抜けか?」と煽られるゲーミング・スラムで育ったという過去が私をこうしてしまった。

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 それはもはや呪いというか強迫観念みたいなものだが、今作『帰ってきた魔界村』は私に衝撃をもたらした。

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 これが本作の難易度選択画面だ。なにが衝撃かだって? もちろん私は最高難易度「伝説の騎士」を選択した。十字キーを使わずに、だ。

 

 そう、本作の選択画面では、はじめにカーソルが合っているのが最高難易度「伝説の騎士」なのだ。デフォルトの選択肢が、だ。だいたいのゲームでは難易度ノーマルレベルがデフォルトだが、今作では「伝説の騎士」。これはつまり、ゲーム開発陣が「伝説の騎士モードで遊べ」というシグナルを送っているということだ。私はそのシグナル…………カプコンからの果たし状を受け取り、不敵に微笑んだ。

 

 しかしそれが、地獄の始まりだった。

 

2.私もあなたも悪くない。悪いのは魔界だ。

 クリアがあるタイプのゲームでは、稀に「行き詰まる」ことがある。どこに行けばよいのかわからなかったり、ある特定の敵が倒せなかったりで首をかしげる。そして大体の場合、たまたま見落としていたアイテムを使うとストーリーが進んだり、弱点を突いた攻撃をするとアッサリと敵が倒れたりして「なーんだ」と思うことになるのだ。

 

 しかし本作には、その「なーんだ」が全くなかった。それはつまりどういうことか、クリアまでの目途は立っているのだ。だって横に進めばよいのだから。短距離走をすればボルトが勝つくらい当たり前だ。そう、生き残って進めば良いのだ。ゾンビやコウモリなど、敵はわらわらといるがヤリを投げれば倒せるザコばかりだ。

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 しかし、目途は立っていても、なにも予定通りにはいかない。

 

 何故か? 魔界村は本気だからだ。魔界村は本気でプレイヤーを苦しめる。言ってしまえばこのゲームは理不尽だ。ステージ道中、ゾンビなどの雑魚敵はランダムに沸いて出現するがその数に限りはなく、アーサーがステージを突破するか死して屍を風に晒すまで延々と現れ続ける。しかもその出現パターンは予測が難しく、いきなりアーサーの足元に出現したり頭上から降ってきたりと様々なパターンがある。

 

 そしてやってくる。「不可能」の時が。足元にゾンビが出現! ゾンビの出現から攻撃判定が出るまでにはわずかな猶予がある! あなたはすかさず前に跳躍した。自分の命を守り、魔界村を滅ぼすために! しかし着地した瞬間、次は足元から死神が這い出てくる! 先ほど出現したゾンビもこちらに向かってきた! しかも前方に出現したグリーンモンスターが目玉を射出する攻撃を行ってきた! 目玉攻撃と重なって別のゾンビもこちらにくるが、もちろん敵にフレンドリーファイアの概念は無い! 4方向からの攻撃だ。エマージェンシー! あなたはどうすればよいのか?

 

 どうしようもない。

 

 どうしようもないのだ。あなたも私も悪くない。運が悪い。被弾するしかない。

 

 これはゲームだ。ゲームとは言ってしまえば課題と達成の繰り返しだ。しかし毎回必ず課題達成できるわけではないというのが魔界村の特徴である。無残にアーサーが屍に変わる。ここであなたは怒るはずだ。「不完全な欠陥ゲーム!」つばを飛ばしながら消費者庁に電話をかけるかもしれない。私だって何度も激情に震えた。「私に非はない!」ゲーム画面に吠えたのは一度や二度ではない。「藤原ァ!!」ゲームデザイナーの名前を叫び、switchのコントローラを軋ませたこともある。

 

 しかし、あくまでゲームだ。ゲームが娯楽である以上、そこに悪意を見出すのはお門違いだ。だから私は消費者庁の電話番号を調べる手を止め、コントローラを握り直した。

 


3.怒りに、そして達成感に震えろ。そして魔界を打ち倒せ。

 このゲームは本当に難しい。そして何度もゲームを投げ出しそうになる。ゲームがスタートしてからアーサーが倒れるまでの平均時間はだいたい2~3分だが、私は最初のステージをクリアするのにゆうに2時間以上の時間を要した。それは少しのミスで最初からやり直しになるゲームを数十回リトライしたということであり、それは地獄に叩き落され賽の河原で石を積む作業とほぼ同じだった。形ががたがたの石は全く積み上がらないし、たまに地震が起きたり意地悪な鬼がやってきてせっかく積んだ石をバラバラのめちゃくちゃにされてしまう。その度に私はモニターに向かって言論の力で立ち向かい、自らを鼓舞した。「お゛い!!!!」「なんでなんでなんで!!!!」「クソアホ魔法使い!!!!!」頭に血が上り、目が乾きそうになる。闘志の火を絶やすわけにはいかない。だから怒りという名の薪をくべろ。

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上画像のゾーンで私は発狂寸前までいった。常人なら頭がどうにかなる困難の連続である。今私がこうしてまともでいられるのはほんの偶然にすぎない。



 そして何度も繰り返せばいつか幸運に幸運が重なることがある。石たちが奇跡的なバランスで積み上がり、見張っている鬼も眠たげに目をこすっている。そのチャンス、私は咄嗟に駆けだして船を乗っ取り、爆速で三途の川を渡って現世への復活を果たした。モニターには「ゾーン1 CLEAR」と表示されており、つまり最初のステージをクリアしたということだ。

 

 そのとき、私の口から出た声を正確に文字にするならこうだろう。

 

 「ッッッッッッッシャ!!!!!!!」

 

 アドレナリン! ドーパミン! エンドルフィン! ホーチミン

 

 様々な快楽物質が脳内に駆けめぐり、長く深い息が出る。握りしめた拳から少しづつ力が抜け、先ほどまでの怒りが快感に変わっていく。これだ。私が求めていたものはこれなのだ。この達成感は筆舌に尽くしがたいものだ。だがあなたもゲーマーならわかるだろう、苦痛と困難の先に見える光のまぶしさが。他人のゲームプレイを見てるだけでは味わえない黄金の体験、ミダス王も羨むほどの愉悦。

 

 最初の問に戻ろう。なぜ現代にこんな古臭い見た目のゲームをやる理由があるのか? その答えは「そこにクリアがあるから」だ。ゲームにはクリアがある。そしてクリアの快感も確かにある。それには古臭さなど関係なく、ただそこに至るまでの困難がスパイスになるだけだ。

 

 集中力と操作テクニックと少しの運、そして大量の忍耐力、必要なのはこれだけだ。もしあなたが本作をプレイするならば、繰り返しの挑戦にめげるときがくるかもしれない。しかしそれでもトライ&エラーを繰り返し、艱難辛苦を乗り越えれば、やがてゴールが見え、ゴール前のボスに負けてまたやり直しになるだろう。そしてあなたは上げるのだ。怒りの咆哮を。あなたの中に眠っている獣性が目を覚まし、その獣に安らかな眠りを与えてやるにはゲームクリアしかないと気づく。そこからが、真の『帰ってきた魔界村』の始まりだ。

 

 私はこの週末で、なんとか本作の最終ステージをクリアした。だがそれは1週目、魔界村はシリーズの伝統的にもう一周全ステージをクリアしてこそ真のクリアなのだ。さらに2週目はステージが更に難しくなっているという。つまり、まだ私の眼前には茨の道が広がっているということだ。茨のトゲには猛毒が塗られ、卑劣な悪魔の仕掛けた凶悪な罠がそこかしこに仕掛けられている。

 

 それでは、私はもういく。もちろん魔界村を滅ぼすためだ。もしあなたが私と同じように魔界に足を踏み入れ、ゲームクリアという黄金のリンゴに手を伸ばすとしても、私からしてやれることはない。だが、戦っているのはあなただけではない…………それだけは保証できる。魔界の墓場、処刑場、洞窟…………そこに私がいる。だから進もう。クリアを目指して。

 

 

 

 

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