「Jump King」で賽の河原を飛び越えろ。

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師匠も走るほどに忙しくなることから12月の別名を師走というが、私の12月は「師跳」だった。「走る」のでは無く、「跳ぶ」…………つまり、「Jump King」をプレイしていたということだ。

私はカエサル。今日は「Jump King」の話をする。

・Jump King とは

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「Jump King」というゲームキービジュアルを見たあなたは思った。「スーパーファミコンのゲームか?」 たしかにドット絵で描かれたスタイリッシュさのかけらの無い甲冑キャラクターを見ればそう思うのも無理はない。しかし、これは2019年に発売されたゲームだ。最近switchやPS4にもローカライズされたことから、もはや有名なゲームかもしれない。

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ゲームとしてはアクションゲームだ。ストーリーは単純、「塔の上にいるギャルを迎えに行く……」というもので、マリオブラザーズ魔界村と大体一緒だと考えて貰えば良い。

続けて、ゲーム操作の説明(PC版)をしておこう。

 

矢印キー(←→) : 移動
スペースキー : ジャンプ

 

これだけだ。攻撃ボタンは? 村人に話しかけるにはどのボタンを押せばいいの? そんなものはない。このゲームにあるのはジャンプボタンだけだ。敵がいないから攻撃ボタンなんて存在しないし、村人は放っておいても喋り続ける狂人しか登場しないから話すためのボタンも必要ない。

ジャンプボタンを押すと、キャラクターがしゃがんで力を溜め始める。そしてボタンを押した長さに応じて、ジャンプの高さが変わるのだ。そしてジャンプしたが最後、空中で一切の制御はできない。ただただ重力と放物線に身を任せるのみ。そのジャンプを駆使して、上へ上へと昇っていくのがこのゲームの目的だ。つまり、ジャンプだけだ。他の要素は無い。

マジでジャンプだけ? マリオ兄弟だってダッシュボタンくらいあったぞ? と思ったかもしれないが、このゲームは本当にジャンプだけのゲームだ。ガードも無ければスキルも無い。仲間も居なければ手持ちもポケモンも居ないし、武器が無いので武器変形攻撃も無い。Vトリガーも無いしムーンドライブも無い。EVA-8オートも無ければ期間限定ガシャだって無いのだ。

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そして忘れてはならない本ゲームの特徴として、「落ちる」ということがある。それはアプリがシャットダウンするという意味ではない。そのままの意味で、「落ちる」のだ。勢い余ってジャンプしすぎたり、逆にジャンプが足りなかったりで足場にたどり着けないと、キャラクターは落ちていくのだ。下に、下に。

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もちろん本ゲームはオートセーブだ。通常、ゲームにおいて「オートセーブ」といえば、予期せぬゲーム終了に対しても進行度が保存される「安全弁」という役割が強いが、こと本ゲームにおいてのオートセーブは「悪意」そのものだ。落ちてしまったが最後、絶対にもう一度同じ手順を踏んで登らせてやるという作為を感じる。このため、本ゲームは非常に高難度なゲームになっている。

少しづつ、少しづつ登っていった末に、ひとつミスしただけで積み上げてきたものが台無しになる。先ほどこのゲームに「敵」は居ないといったが、あれは嘘だ。重力という敵にプレイヤーは苦しめられることになる。

賽の河原(さいのかわら)を知っているか? 冥土の三途の河原、死後の世界で、子どもが父母供養のために石を積んで塔を作るが、やがて鬼がやってきてその塔を崩してしまう。子どもはとても鬼には勝てないので、崩された塔をまたひとつひとつ積み上げていくしかない……。そういった伝説を、ゲームして遊べるようにしたのが「Jump King」だ。

そんなゲームが楽しいのか? 答えは……「あなた次第」としかいう事ができない。しかし、私は14時間45分間このゲームを遊び、そしてクリアした。だからこのゲームに少なくともそれだけの価値はあると思うし、その体験を紹介していこう。なお先に断っておくが、私がクリアしたのは「表面」と言われる通常マップのことで、いわゆる「裏面」などの更なる高難度マップはクリアしていない。

・意外と飽きない

「Junp King」をクリアして最初に思ったのは、「案外作りこまれたゲームだったな」というものだ。初見の印象としては「ジャンプ失敗でやり直しを何度も強要するという内容の、自律神経の狂ったマゾヒスト向けゲーム」という印象だったが、これが意外とそうでもない。確かにこの内容も真実なのだが、それだけでは無いのだ。

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まず、グラフィックが綺麗だ。こういったドット絵のグラフィック背景を見るのも久しくなってしまったが、なかなか精緻に描きこまれている。マップの全容は、森林エリアから始まり下水道や商店などを通って吹雪さす山間を抜けて……となかなかに長い道のりなのだが、プレイ中に新しいエリアにたどり着くたびに風景や色合いがガラッと変わり純粋にわくわくする。

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さらにゲームとしても面白い。「通常のジャンプに慣れてきたぞ」という頃合い、吹雪の雪山ステージにたどり着くのだが、このマップでは雪に足を取られて通常の移動ができなくなるばかりか、一定時間で左右に方向が切り替わる吹雪がジャンプに影響を及ぼすのだ。「ここに来て新要素かよ!?」と新鮮なプレイフィールを体験することができる。

終盤では「氷の床で足が滑るステージ」などアクションゲームならお馴染みのギミックもあり、それがこのゲームの「一度ミスしたらまたやり直し」という要素とマッチしてとてつもないスリルを生み出す。それらの要素により、ゲームとして「飽きる」ことなくプレイを続けることができるのだ。

・怒りと向き合う

「飽きる」ことなくゲームは続けられるが、しかしそれが「ストレスのない」ゲームということではない。私は別にJump Kingを作ったNexile社にカネを貰っているわけではないのでハッキリと書くが、このゲームにストレスはある。確実に。たっぷりと。

賢明なる読者諸君もわかっているとは思うが、「落下」だ。それだけだ。「落下」が非常にストレスなのだ。これを説明するのは内容の重複になるためだらだらとは書かないが、一言だけ書くなら、私はこのゲームのプレイしていた日々、たまたま目にした「タケコプターを使うドラえもん」に嫉妬した、ということだけは述べておこう。

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やり直しというのは大きなストレスだ。

明日は午前中からプレゼン発表があるから、資料を作成しなければならない。14:00から始めたプレゼン資料の作成業務、思ったより手間取って17:00までかかってしまった。しかしなんとか完成にまでこぎつけ、作成資料を保存しようとしたその瞬間、窓の外で大きな雷鳴、あっという間に停電が発生して部屋が真っ暗になった。もちろん目の前のPCモニターもブラックアウトだ。あなたの頬に汗が垂れる。

すぐに電気は復旧したが、PCを付けてみると先ほどまで作成した資料データは綺麗サッパリなくなっている。なぜ? どうして? なんでこんなひどいことをするの? あなたは無垢な5歳児のように助けを求めるが、神は見ていない。誰も助けてくれはしないのだ。ただ明日のプレゼン発表だけは確実に迫っている。あなたは5歳児のスピリットを投げ捨てて、大人としてまた同じデータを作成し始めた。ストレスで胃を痛ませながら……。

これと同一のストレスを、Jump Kingでは1時間に30回くらい感じることができる。時間あたりの絶望量がとてつもなく多い。ストレスの高コスパだ。そうして積み上がったストレスは、人に様々な影響を与える。私の場合は「怒り」だった。正直に話そう。このゲームで私がテーブル殴った回数は4回だ。

 

 

しかし……究極的に言えば、ゲームは悪くない。そのゲームを選択してプレイしているのは私だ。母親を人質に取られ「このゲームをクリアしなければ撃つ」と脅されているわけでもないので、イラつくならゲームをやめればいい。それは百も承知だ。しかし、私は不完全な人間なので、ゲームを続け……そしてあらゆる要素にイラつくのだ。

どんな場所にも、ジャンプをワンミスしたら死ぬほど落下するポイントが用意されている。製作者の底意地の悪さが見て取れる。本ゲームの開発者が誰かは知らないが、ソイツはゲーム作りの上手い性格破綻者だ。私はこのゲームをプレイしている日々、「Jump」や「King」という文字をどこかで見る度、奈落への急降下を思い出して心的外傷を負った。ポーカーでジャックとキングが配られたときなど、怒りがフラッシュバックしてまともなプレイができなくなった。

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キャラクターも腹立たしい。バケツみた甲冑を着ているコイツはなんなんだ? 敵が居ないんだから甲冑の防御力は必要ないだろ。ポーズも腹立たしい。T・ホークみたいな立ち姿しやがって。なんなんだコイツは? 

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色々と文句を言ったが……先ほどもいった通りゲームは悪くないのだ。面白い点もあるのは間違いない。なので、もしこれを読んでいるあなたが本ゲームに挑戦するといったときのために、私がいくつかのメッセージを残しておこうと思う。

しかし、これは別にJump Kingをあなたにオススメしているというわけではない。なんとか私はこのゲームをクリアして地上に帰ってくることができたが、このゲームをプレイして怒りに狂い、鬼神に目覚めてしまう人間が出てきてもなんら不思議はない。本ゲームを誰にでもオススメするというのは器物損壊罪や自殺教唆・ほう助の罪に問われる可能性すらある。だから、このゲームをプレイするかは自分の判断で行って欲しい。もちろん、ウイスキーを飲んでいない時にだ。

 

・一気呵成にやれ

まずひとつめのアドバイスだが、「一気にやれ」ということだ。このゲームは戦いだ。毎日1時間ずつちょこちょこ進めて少しづつ楽しんで……みたいなのはどうぶつの森だけにしておけ。何故なら、このゲームにレベルやスキルなどのデータ的成長要素はないため、経験値はあなたのその腕・肉体にのみ蓄積していくからだ。

どこから、どの向きに、どれくらいのジャンプ力で飛べば上手くいくかという経験値。それは職人が作り出すガラス細工のように感覚的なもので、言葉や文字で説明することはできない。そしてその感覚は、時間が経つと忘れてしまうのだ。

実際に、私は約15時間かけて本ゲームをクリアしたが、プレイした日数は六日だ。そしてその内訳は、最初の五日間が7時間、六日目に8時間かけてクリアしたのだ。このデータから本ゲームをプレイするときは「時間をとって一気にやれ」ということは明らかだ。もしあなたが「私はこのゲームを一年間かけて少しづつクリアするよ」というのなら止めはしないが、次に会うときに狂っていないことを祈るのみだ。

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(私はここで狂うかと思った。)



・兵糧を切らすな

私がこのゲームをクリアしたその日は、起きた瞬間から「今日は絶対に殺してやる(Jump Kingをクリアするぞ!)」という決意に満ち溢れ、昼前から始めて食事もとらずに8時間続けてプレイしクリアした。しかしその間私が餓死しなかったのは、きちんと兵糧を用意していたからだ。

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私が備えたのはこの「コーラアップ」だ。固めのコーラグミが戦う兵士のための食糧だというのは事情通なら知っているとは思うが、この「コーラアップ」は名前に「アップ」とある通り、「上へ……」という上昇の意志が感じられており、良い。

この項目で言いたいのは、別に「コーラアップを買え」ということではない。「サイドアーム(相棒)を用意しろ」ということでもない。「決意を固めろ」ということだ。

このゲームをクリアできなくなってしまうのは、「言い訳」が用意されたときだ。間合いを見誤ったミスジャンプ、プレイヤーは奈落の底へと落ちていく。積み上げた努力は泡と消えた。その瞬間、あなたはつい時計を見る。19:00、そろその夕食にしようか。あなたはゲームを終了し、コートを来てダイナーへ向かう……。そして、あなたのJump Kingは終わり、二度と起動されることはなかった……。

別にそれは夕食だけでなく、「もう寝る時間だから」とか「Mステが始まる時間だから」の可能性もある。それらの言い訳を最初から潰すのだ。食事は後にしてグミで空腹を紛らわせ。明日が休みの日にプレイ……もしくは仕事なんて辞めろ。Mステは録画しておけ。そういった決意を持って、Jump Kingを攻略するのが、結果的に良いジャンプに繋がるだろう。

 

・達成感がある

さて、色々と書いたが、総合してこのゲームは「プレイして良かったゲーム」であった。それはひとえに、「クリアしたときの達成感」がトップクラスだからだ。頂点にたどり着いた瞬間の気持良さ。これは明確に「勝利」と言ってもよいだろう。「勝利」の気持ちよさは筆舌に尽くしがたく、私はこのゲームをクリアした瞬間に口から出た言葉は「ザマ見ろッ!!!」だった。

「オウッ!!!! オウッ!!!!! アオオッ!!!! 」とアシカのように吠えた後、エンディングを見ながら私は立ち上がって踊った。腕を伸ばしたり縮めたり、オインゴボインゴブラザーズのように踊った。

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ジョジョの奇妙な冒険 第三部 EDより)

 

この勝利の舞こそが、私がゲームに求めるものだ。誰も見ちゃいないが、自分で自分を認めることのできる瞬間。それがゲームの楽しさのひとつだろう。塔を登り切ったその先に立つギャルを抱き、プレイヤーキャラクターは優雅に塔からジャンプし、滑空しながら降りていく。エレガントな夕日をバックにだ。その夕日の鮮やかさが、これまでのストレスを吹き飛ばして脳の報酬系をガンガンに刺激……有頂天になって腰をツイストだ。全能感、今ならどこにだって跳んで行ける気がする、この私のジャンプ力を持ってすれば……。

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想像していたよりギャルがホットなベイブだったというのも非常に良かった。情熱的なレッドドレスとブロンドの長い髪、グラマラスなボディ。先ほどはこのゲームの開発者を精神破綻者と書いたが、女の趣味の良い性格破綻者だったと訂正しておく。

 

 

それでは、私はもう行く。もちろん次の勝利の舞を踊れるステージを探しにだ。それはJump Kingの次マップかもしれないし、そうではないかもしれない。しかし、あなたもゲーマーであるならば、いつかどこかの塔の上で会うことになるだろう。もしそのときは、お互いがこれまでに集めてきた王冠を自慢しあうことにしよう…………。

 


 

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