ティッシュポップコーン世界大会に参加してみた
■プロローグ
「金は命より重い……」とはご存知、利根川幸雄の名言であるが、もしその金が命よりもずっとずっと軽い、ティッシュやポップコーンなどに左右されるとしたら…………?
■世界大会、始まる。
ある日、いつも通りインターネットをしていた私は、「ティッシュでポップコーンを作る大会」なる情報を手に入れた。詳細は以下のリンクである。
(ティッシュポップコーン世界大会公式サイト)
要約すると、「ティッシュを丸めてポップコーンを作るのが一番上手い奴に賞金100万円!」という話だった。
率直な感想としては、「まだ世間にお金って余ってるんだなあ」という所である。国内大会編もやってないのに世界大会編とは週刊少年ジャンプもビックリの急展開だ。
しかし「100万円」という本気を見せている主催・運営に対し、「くだらねー」とスルーしてしまうのもつまらない。ここはひとつ世にも珍奇な「ティッシュポップコーン世界大会」に参加してみようと思い立ったのが事の始まりである。
■ティッシュポップコーン、意外と難しい。
世界大会と銘打ってはいるが、所詮やる事はティッシュを丸めてポップコーンに似せるだけだ。まあ5分もあればそれっぽいモノも作れるだろうと考えた私は、イスに座ったままテーブルに備えてあったティッシュを一枚手に取った。
だがしかし、その考えは余りにも甘かったのである。
これは私が最初に作ったティッシュポップコーンである。"ティッシュポップコーン"は名称が長いので、今後はTPと略すことにする。このTPは、一応なんとなくポップコーンのような形をしているが、しかし"ポップコーンに似たティッシュ"の域を出ていない。
それではダメだ。仮にも世界大会である。この調子ではアメリカ代表のTPメイカーに「HAHAHA! ジャポンのTPはこんなものデスカー? 所詮島国デース!」などと言われてしまうだろう。
もっと、真に迫るTPを作らなければならない。
■調査編 ポップコーンについてよく知ろう。
私は考えを改めた。愚かだった。最初私は、ティッシュポップコーンについて「気狂いが考えた馬鹿な遊び」と軽んじていたのである。
それではダメだ。背筋を正し、真剣になる必要がある。
そもそも、ティッシュを丸めてポップコーンを作るのに、見本・目標であるポップコーンが手元に無いのは言語道断という他ない。私は椅子から立ち上がった。
ポップコーンといえば映画館だ。私は自宅から一番近い映画館へと向かった。
「天気の子」「ライオン・キング」などのポスターが並ぶ中、チケット売り場にはわき目もふらず売店に直行する。
「ポップコーンをください」
と私が言うと、店員は当たり前のように館内で食べる用のカップで提供してきた。
「持ち帰りにできますか?」
と言うと、店員は少々面食らったようであった。私も映画館を純粋に飲食店としての用途のみで訪れたのは初めてだったので、無理もないだろう。
しかしそういった客も想定されているのか、手提げのビニール袋に入れてくれた。これは非常にありがたかった。
帰りがけ、サンプルは多い方が良いと考えスーパーやコンビニでいくつかポップコーンを購入した。
左手前にあるのが映画館で購入したモノである。早速、購入してきたこれらを開封・調理する。
それぞれ形状や色味に若干の傾向があることがわかった。また、これは調べて初めて知ったことなのだがポップコーンは形状で二種類の名前があるらしい。形状が蝶のように広がっているものを「バタフライ」と呼び、大きく丸く膨らんでいるものを「マッシュルーム」と呼ぶらしい。
更に知ったことであるが、ポップコーンの材料となるコーンは、サラダに入ってるようなスイートコーンとは品種が違い、ポップコーン用の品種は「爆裂種」と呼ぶらしい。爆裂種。モンスターハンターでしか聞かないような名前だが、実際そういう名の品種なのだから面白い。
しかし今はTPの話だ。モンハンの話ではない。PS4に伸びる手を止め、ポップコーンに意識を戻す。
■見本を定め、材料を選ぶ。
5種のポップコーンを矯めつ眇めつ観察し、今回の見本とするのはセブンイレブンで販売しているモノに決定した。理由としては、
・ティッシュへの彩色がルール違反(と思われる)のレギュレーションである今大会において、バター等がかけられたモノは色味が似せられない。
・形状が最も「ポップコーンと聞いて私がイメージするもの」に近かった。
の二点が主な理由である。
こちらが見本である。
見本ポップコーンの次に考えるのはTPの材料であるティッシュだ。こちらも、近隣で調達できるものをいくつかピックアップしてきた。
余談だが、ティッシュの銘柄をたくさん抱えてスーパーのレジに向かったとき、レジのおばちゃんに「こんなに何に使うの? ティッシュの研究?」と聞かれた。「ポップコーンを作るんです」と答えたならばと狂人だと思われ今後の生活に支障をきたすので、「まあそんなところです」と曖昧に答えるしか手が無かった。
こちらも開封して比較していく。
写真だとパッと見の違いはなかなか分からないが、上段に配置されている少し高級なティッシュは厚みがあることがわかる。
今回のTP用ティッシュに求めるものは先述した理由により白さ・明度だったので、画像編集ソフトに取り込み、それぞれのティッシュが映っている部分の色を何点かスポイトで選択し、最も平均的に明度が高かったものを選んだ。
その結果、⑥Scottie カシミヤ を今回のTPの材料として採用することに決定した。
■試行錯誤、始まる。
見本とするポップコーンと材料となるティッシュが決まった。後は実際に作っていくだけである。私は元々あまり手先が器用な方ではないため、細々と作業していくのは得意ではないが、見本に近づけていく作業は新鮮でなかなか楽しかった。
具体的な私のTP作成法は以下の通りだ。まず最初にティッシュを丸め、そこから形を出していく。
細かい部分の形を作るのには、自宅にあった爪楊枝を使用した。
先述した通り、私はけっこう楽しんで作業を続けていた。あーでもないこーでもないと考えながら試行錯誤をするのは面白いものだ。しかし、どう工夫しても超えられない壁がひとつあった。
その壁について説明する前に、この時点での試作品を見ていただこう。
まだまだティッシュである。さて、ここで先ほどの「見本」として表示した画像を再度表示しよう。
この形をよく見てほしい。ポップコーンには「本体」と「パーツ」に分かれていることがよくわかる。
攻撃判定の図示ではない。パーツ分けの表示である。ポップコーンには、膨らんでいて一番大きな「本体」となる部分と、それらのサイドに陣取る「パーツ」によって構成されているのだ。
この「パーツ」が、ティッシュでは再現することができない。
これにはティッシュポップコーンの構造的に仕方のない点だと言える。ティッシュを丸め、まず本体の部分を作成してからパーツとなる部分を分裂させようとすると、ティッシュに厚みが出てしまい、"くびれ"ができずに不格好なものとなってしまうのだ。
それが如実に表れているのが先に掲載した試作2号のTPである。本体部分からパーツ部分へと接続している部分が、ティッシュの厚みによって膨らんでしまい、不格好になってしまうのだ。
また、ここにきて別の問題も発生した。比較のため開封したポップコーンをポリポリと食べながらTP作成をしていたのだが、圧倒的に量が多いのである。一人暮らしで消費する量ではなかったが、昼食と夕食をポップコーンだけで済ませてもまだまだあり、満腹中枢が鬼のように刺激されて眠くなってしまった。
結局この日は、そのまま寝てしまった。
その後も、何日か同じような製法で試行錯誤を続けたが、完成度の上昇は見られなかった。
■ブレイクスルー、来たる。
TPの作成を始めてから数日が経っていた。先述の問題からどうにも完成度の上昇が見られなかった私は、何か視点を変えようとティッシュポップコーン世界大会の公式ホームページを閲覧していた。
そして、以下の一文を見たのである。
一見、なんてことはないQ&Aに見える。
しかし、私の脳内には衝撃が走っていた。
今までの私はティッシュをそのまま二枚一組で使用していた。二枚を分けて薄い一枚の状態で使用しTPを作成することも試していたが、そちらでは単純に量が足りず本体とパーツをそれぞれ作成することができなかったのである。
だがここにきて、私にひとつの発想が舞い降りた。
「薄い一枚を二枚組み合わせて、ひとつのTPを作れば……!」
その発想から考案されたのが、下記の「コア(Core)&カバー(Cover)製法」である。
図解すると単純な発想だが、この方法ならばカバー部分を「パーツ」作成に集中させることが可能なため、作業性の改善とパーツ部分の完成度の上昇が望めるのだ。この方法を思い付いたとき、私は思わず身体が震えあがった。
そこからはまたトライ&エラーの繰り返しである。使用する道具もピンセットと裁縫針になった。ポップコーンの表面の細かな隆起を表現しつつ、光の反射を抑制するために針でティッシュをつついて表面をけば立たせるという手法も会得した。(こちらは手芸のニードルフェルトから発想を得ている)
■完成
そしてようやく、満足いくTPが完成した。
カメラを用立て、投稿用の写真を撮影した。
ここまで読んで頂いた方には感謝を伝えたい。
こちらがこの記事の本題、私のティッシュポップコーンである。
■エピローグ
ここまでのTPを通して、様々な試行錯誤を行った。最初は遊び半分の気持ちだったが、途中から食品サンプルを作っているような感覚になっており楽しかった。それは収穫と言えるだろう。
暇つぶしとして始めたにしては、合計でかなりの時間を要したが、それだけ熱中していたとも言える。
最終的に完成したTPも、なかなか愛着が沸いてしまったのでデスクにでも飾ろうと思った。
しかし、
………………。