【総額5280円】映画館のフードメニュー全部頼んでお腹いっぱいになる。

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 もしあなたが小説家で、作中の主人公がヒロインを連れて映画館に行ったとする。主人公は気を利かせてチケットを事前に取ってあるが、ドリンクなど売店のフードメニューはそうはいかない。二人はカウンターの前に立ち、そしてヒロインはこう言う。

 

「ポップコーンとドリンクのセットください」

 

 これだけだ。

 

 本当にこれだけ。映画を見に来たとき、小説の登場人物だろうがノンフィクションの私たちだろうが売店で喋るセリフは本当にこれだけである。統計は取っていないが、概ねの人が映画館の売店ではポップコーンしか買ったことが無いだろう。かくいう私もそうだ。しかし、それでは先ほどの凡庸なセリフしか出てこない! 本当のヒロインは食いしん坊なのに!

 

「シネマイクポップコーンのセット、味はクレイジーソルトで飲み物はコカ・コーラ。あとはチョコクリームチュリトスとジョンソンヴィルホットドッグのチーズソース、オリジナルサンドはアボカドバジルモッツァレラ、ちょびっとチキンとフリじゃがもつけてください」

 

 本来ヒロインが言うべきセリフはこれだ。その後、欲望のままに頼み過ぎたことに気づいたヒロインが赤面し照れ隠しにはにかむ。そのキュートさにやられた主人公と読者は彼女への好意が高まり作品の完成度もグングン上昇していく。やがて小説は直木賞をとって大ヒット、ドラマになり映画になり印税が1000000ドル入ったあなたは豪邸を構え太い葉巻をぷかりとやって満足げに微笑む…………はずだった。

 

 しかしそうはならなかった。それは何故か? もちろんあなたが知らなかったからだ。ポップコーン以外のフードメニューを!

 


 というわけで今日は映画館の話だ。映画……ではなく映画館売店のフードメニューの話である。冒頭に書いた通り、私たちは映画館でポップコーン以外を買わない。確かにポップコーンは売店の主役だろう。しかし実際にはあるはずなのだ。影に隠れたまだ見ぬメニューが。それらは爪を研ぎ、まだ見ぬ獲物を待ち構えている……。

 

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 今回はそれらの脇役をまとめて一気にいただこうという計画だ。映画も観てお腹もいっぱいになってマジでハイになるのは間違いない。善は急げとばかりに、私は家を飛び出した。

 

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 TOHOシネマズに到着した。普段は映画を鑑賞だが、今日はディナーを完食だ。エスカレーターを昇っていくと、映画館特有の暗がりが訪れた。

 

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 売店に到着、ポップコーンの良い香りが辺りを漂っている。平日の夜という時間帯を選んだため、カウンターに人はあまり並んでいなかった。レジ前に立つと、カウンターのお姉さんが「いかがいたしましょうか?」と問いかけてくる。

 

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△メニューは許可を貰って写真撮影させていただいた。



 私は決意をもって口を開き注文内容を読み上げてる。ポップコーン、ドリンク、ホットドッグ、そしてチュロス……。ひとつひとつフレーバーやドリンクの種類を選択しながら注文していく。最初、店員さんはにこやかに対応していたが、私がジョンソンヴィルホットドッグと言った辺りで私の背後を気にした様子を見せ、

 

「トレーがおふたつになりますが構いませんでしょうか?」と言った。

 

 確かにそうだろう。既に注文量は他のお客さんと比べて結構な量だ。そこでお姉さんはおひとり様じゃないと判断し、お連れ様が居るのかなと推測したのだろう。しかし私は単独行動、孤独のグルメ、一人民族大移動だ。

 

「一人なんですけど、大丈夫ですか?」

 

 と返すと、「一応大丈夫です」と返事が。映画館に精通している方はお気づきだろうが、2020年現在映画館は感染症対策のため、スクリーン館内座席はひとつひとつ間を空けて着席することになっている。つまり肘置き兼トレー設置箇所を座席の両側どちらも使うことが可能なのである。なので一人でトレーがふたつでも今日は大丈夫なのだ。これ幸いとばかりに注文を続ける。

 

「ホッドドッグのナポドッグwithチーズソース、オリジナルサンドはハム&チーズ、ちょびっとチキンとフリじゃが……」

 

 そう続けていくと、レジのお姉さんは珍獣でも目にするような瞳でこちらを見つつ、「少々お時間いただきますが、よろしいでしょうか?」と遮った。「食い過ぎだデブ」とは言わない、流石プロだ。私が「構いません」と返すと、お姉さんはレジ奥の他スタッフに何やら指示を出していた。

 

 

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△淡々と大量の注文をしていく。お姉さんは曖昧な笑みを浮かべていた。

 

 アイスクレープなどのデザートメニューを注文しようとするとトレーが三つになる可能性があったため、それらは断念し映画の後に再度改めてオーダーすることにする。そしてしばらく経つと、カウンターに並べられたふたつのトレーにフードが並べられ、ついに私に提供された。

 

 そしてこれらが、今回いただくメニューの全貌である!

 

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 商品それぞれの紹介は後でするとして、今日初めて見るメニューも多くポップコーン以外にも様々なメニューがあることを改めて認識した。ホットドッグやオリジナルサンドなどはポップコーンでいうところの塩かキャラメルかのように他のフレーバーがあるため、これで真に全種類というわけではないが、大枠の注文ではこれらでコンプリートだ。


 それでは早速館内に入って実食! と言いたいところだったが、そこで重大なミスに気づく、映画のチケットを買っていなかった。というか、フードメニューを頼むことに夢中で肝心の映画について何も考えていなかった。映画のチケットも持たずに大量の食べ物抱えて仁王立ちだ。これではただ映画館に迷い込んだフードファイターである。だが幸運にもちょうどよいタイミングの映画があったため、そのチケットを購入する。食べ物が多すぎるためもしかしたら匂いを気にする方も居るかなと思い、スクリーン内の端っこの座席を購入した。


 両手に山盛りのトレーを持って館内に入る。ちなみに購入したチケットは「コンフィデンスマンJP プリンセス編」という映画のもの。長澤まさみが演ずる詐欺師を主人公にする作品で、2018年に放送されたドラマシリーズ二度目の劇場版だ。映画泥棒のムービーを横目に、座席にトレーをセットする。

 

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 今までに映画館に来たことは数あれど、両側にトレーをセットしたのは初めてだった。両手に盾を装備した感覚というのか、それともジャンクマンというのか、すごい防御力の上昇を感じずにはいられない。何というか、「完全になった」感覚がある。ふかふかのシート、これから始まる面白そうな映画、そして大量の食事……。これを完全、パーフェクトと言わずに何と言えよう。そういった全能感に包まれながら、映画が始まり、そして私はフードメニューに手を伸ばした……。

 

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 まず最初に手をつけたのはやはりポップコーンだ。この世で最も美味しくポップコーンを食べれる場所はここしかない。映画館売店の主役に敬意を表し、神妙な手つきでそれをつまみあげた。

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 今回は塩味をセレクトした。映画館で食べるそれはほのかな温かみがあって嬉しい。先ほどは「つまみあげた」などと書いたが、私は手のひらを一杯に使ってわし掴み、むしゃりと口につめて冷たいコーラで流し込んでいた。「満足」という言葉が生み出されたとき、そこにはポップコーンとコーラがあったのだろうというほどの味だった。

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 お次はチュロスだ。チョコクリームチュリトスと、見た目が完全にハッピーなレインボーチュリトスの二本を選んだ。チュロスは出来たてで温かいのも嬉しく、チョコレートの方は食べる前からわかっていたがとても美味しい。チョコの甘さがポップコーンの塩味と相乗効果を生み出しており、「甘いしょっぱいで永久機関」が簡単に実現できる。ポップコーンと同時に売ろうと提案した担当者はMENSA会員だろう。


 レインボーチュリトスの方はイロモノだろうと思っていたが、しかし意外にもこれは「当たり」だった! 七色のパウダーはそれぞれ別の味で、イチゴ、マンゴー、レモン、バニラ、メロン、ソーダ、コーラという味構成だ。これが飽きずに楽しめるし、見た目にも次はどんな味かなとわくわくしながら味わうことができる。ふざけた見た目やおちゃらけた言動だが実力はエキスパート、まさに漫画の強キャラのようなチュロスであった。

 

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 次は「ジョンソンヴィルホットドッグ ナポドッグwithチーズソース」だ。パンにナポリタンと太いソーセージが入っており文字通りチーズソースがかかっている。これらへんから菓子ではなくしっかり「食事」という雰囲気が出てきた。味はというと炭水化物! 肉! そしてチーズ! と男子中学生の好きそうな要素を詰め込んだ味である。つまり、単純だがだからこそ確かな需要があるということだ。そして男は基本的に中学生から成長しないので、当然私にも需要があり大変美味しかった。

 

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 オリジナルサンドはハム&チーズをセレクト。先ほどのホットドッグからもわかる通り私はチーズが好きだ。図らずもパンに炭水化物とたんぱく質を挟んだ食べ物が二連続になってしまったが、こちらはパン生地にゴマが入っており差別化されている。食べ応えという点では先ほどのホッドドッグの方が優っていたが、逆に言うと小腹が空いたな……くらいのときはこちらの方がオススメである。

 

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 ちょびっとチキンという名前だが別に「ちょびっと」というほど量が少ないというわけではない。普通にからあげクンより多い。それは謙遜なのか、命名した奴が大食漢なのか、それとも夜に揚げ物を食べる罪悪感から目を逸らすための免罪符のための「ちょびっと」なのかはわからないが、しっかりとした量があり満足できる。油を摂取したいぜ! と思ったのならこれを頼んでおけば間違いない。

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 最後はフリじゃが。一言で言ってしまえばポテトで、今回はのり塩味を選んだ。マクドナルド系の固さのあるポテトではなく、ソフトなタイプのそれだ。これを味わっているときに、スクリーンでは東出昌大が爆弾の爆発を受けてガッツリ吹っ飛んでおり、それと似てガッツリ濃いのり塩の風味が舌にくる味だった。映画館にポテトがあるイメージが無かったため、私にとっては新発見であった。


 ここまででとりあえず味の紹介は以上だ。私はこれらのメニューを「コンフィデンスマンJP プリンセス編」を鑑賞しながら食べ続け、わかったことがひとつある。それは、「全部のフードメニューを頼むと普通に多い」ということだ。「当たり前だろ」「脳みそが不足しているのか?」「おまえはMENSAじゃない」などの声が聞こえてくるが、少し考えてみて欲しい。何も知らない状態で、映画館のフードメニュー全部食べたろ! と思ったときに、思い浮かべるのは「ポップコーンと……チュロスと……あとなんかサンドイッチみたいなのあったかな」くらいのものではないだろうか。


 私もそれくらいの見込みで映画館に来てみて、意外な種類の多さに驚いていた。ホットドッグとオリジナルサンドって素因数分解したらほとんど一緒じゃないの? と思わないでもないが、完全にこちらの見通しが甘かったと言わざるを得ない。映画も佳境になり、小日向文世演ずるリチャードが宿敵の謀略にピンチになっている中、私は自らの満腹にピンチになっていた。当日は普通に朝昼食べていたのも、原因のひとつだろう。


 それでも、やはり映画の120分という時間は長い。食事に疲れたら少し手を止めて映画に集中し、回復して口が暇になったらまた食べる、というサイクルを続けていると、上映開始90分後くらいに完食することができた。満腹ながら鑑賞した「コンフィデンスマンJP」はラストで数々の伏線が見事に回収され、コメディ好きの私にとって大満足の内容だった。後に計算したところ、この上映時間中に摂取したカロリーは約2242kcal。映画の内容的にも、摂取カロリー的にもこの120分は実に濃密な時間であった。

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 完食したトレーを返却し、劇場を後にする……と言いたいところだが、まだ忘れ物がある。そう、デザートだ。劇場から出た瞬間再度売店に直行した私をレジのお姉さんがどう思っているかは知らないが、デザートを声高に注文した。

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 こちらがデザートメニューのアイスクレープチョコバナナ味と、ゴディバカップアイスのミルクチョコレートチップ味だ。映画館でデザートが売っていることも新たな発見だったが、二種類あるというのも驚いた。映画を見終わっていたこともあったため、テイクアウトで購入してカバンにしまい、溶けてしまう前に急いで帰宅する。

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 既に満腹と書いたがデザートは別腹だ。別腹……牛ではない身で使うには便利すぎる言葉であるが、アイスクレープは冷たくしっとりとしていて美味しかった。甘さは少し控え目で、アイスではあるがクレープに包まれたスティック状になっており、手を汚さず片手で食べることもできるので映画館内での食事にも適しているのだなと感じた。

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 最後……長い長いディナーだったがこれで最後だ。GODIVA カップアイス。半溶けになったそれをスプーンで救い上げると、それを追うようにアイスが伸びてその粘度の高さが濃密なチョコレートを予感させる。実際食べてみるとチョコレートの甘さが口いっぱいに広がり、館内で食べたチョコレートチュリトスと合わせ、温かいチョコと冷たいチョコが同じ胃に同居し、チョコがいっぱいで嬉しいなという気持ちになった。


 本日TOHOシネマズに支払った総額は5280円、まあまあ高額に思えるが、映画内で長澤まさみが行方を左右した金額が10兆円ということを考えると微々たる金額だろう。また、総摂取カロリーは2726kcal。先月にブログで「ダイエットをしました!」と書いた後にこのカロリー摂取量は減量の神に中指を立てる行為だと思われるが、映画館からの帰りは15分くらい歩いたのできっと神もお許しになるだろう。


 さて、今回は映画館のフードメニューにスポットライトを当てて話をしたが、チュロスやポテトなど様々な発見があった。これを読んだあなたが映画館に行った際、新たな選択肢の存在に気づき、豊かなシネマライフを送ってもらえたならば幸いである。何故なら、選択肢の多さというのはいつでも人生を豊かにするものだからだ。体脂肪も豊かにするって? そういった問い合わせには現在対応しておりません。ただ、メニュー毎のカロリーを調べる際にTOHOシネマズに電話した際、快く対応していただいたオペレーターさんには最大限の感謝を捧げたい。ありがとうございました。


 それでは、私はもういく。夜空に無数の星があるように、この世にはたくさんの映画館がありそれぞれのフードメニューがある。つまりまだ見ぬ選択肢があるということだ。私は映画を見るのも好きだし食事をするのも好きだ。つまり映画館は最高だ。これからもそこに行く足を止めることは無いだろう。もしこれを読んでいるあなたも映画が好きで、偶然私の隣の席に座ることがあったならば、そのときはオススメのフードメニューを教え合うことにしよう……。

 


 

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