魔法陣でピザを召喚した

 

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 古来より、「魔」というものは人の心を惑わし災いをもたらすモノとして忌み嫌われてきた。「魔」が人の心にさりげなく入り込み、悪魔が取りついたかのように悪い事をさせてしまう。それが「魔が差す」という言葉の由来である。

 

 そしてその悪魔を呼び出すための儀式に用いられる図形、それが「魔法陣」だ。あなたも映画や漫画などのポップカルチャーで怪しげな老女が地面に描いた魔法陣から悪魔を召喚しているシーンを見た事があるだろう。

 

 そう、今日は魔法陣の話だ。先日、私が魔法陣を実際に作ってみたときの話をする。元来、魔法陣や魔術というのは人間の精神の拠り所として発展してきた。疫病などにより世情や社会が不安定になったとき、その不安から目を逸らすために目に見えない信仰や魔術が存在するのだ。十四世紀ヨーロッパに氾濫した黒死病が引き金となり人々が精神の拠り所を求めた結果、後の魔女狩りまで発展してしまったという説もあるくらいだ。それくらい、魔術と世相というものは関係がある。

 

 つまり、未曾有の波乱を迎えているこの現代に魔法陣を描きサバトを開催するというのは何ら不思議なことではないのである。

 

 しかし、ここでひとつの疑問がある。

 

 魔法陣から本当に召喚すべきは悪魔だろうか?

 

 この二十一世紀に悪魔を召喚して何をするんだ? ルシフェルもベルゼブブも特に用事が思いつかない。呪ってほしい相手もいないし、もたらしてほしい災いもない。悪魔って召喚したあとお茶とか出した方がいいのかわからないし、話も合わなそうだ。ちょっと悪魔さんサイドには悪いがこちらに来るのはご遠慮いただきたい。

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悪魔…………善良な私には用途が思いつかない。

 なので、悪魔の召喚はするべきではない。では現代に生きる我々は魔法陣から何を召喚するべきだろうか?

 賢明なる読者の皆様はもうお分かりだろう。

 

 そう、ピザだ。 

 

 ピザ、ピッツァ、PIZZA。小麦粉ベースの生地に具を乗せ焼いた魅惑の食品。チーズとトマトを筆頭にシーフードでもミートでも合う味のバリエーション。日本ではデリバリーで手に入るというのもデブ症、もとい出不精の人間には大きな魅力のひとつだ。その魅力とカロリーから人間を堕落させるという点でピザも悪魔もだいたい一緒である。

 

 呼ぶなら悪魔よりピザがいい。魔法陣でピザの召喚だ。私はそう考えた。なので作った。

 

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 友人3名は実は生贄のためではない。ピザ召喚のためなら仕方のない犠牲……と思ったかもしれないが、単純に作業の協力者、マンパワーとしてだ。いずれも魔法陣の作成、そしてサバトの開催に協力してくれた魔に魅入られし者共である。他の材料は全て近所のホームセンターで調達した。魔方陣を描くための黒い布は、適当なものが見つからなかったため黒いシーツを裂いて代用した。

 

 では実際の作業だが、まずざっくりと魔法陣のデザインを起こし、それを布の上にクレヨンで描いていく。なんてことはない、道路にけんけんぱを描くのとだいたい一緒だ。

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地に伏して線を描くという体験から幼少期を思い出した。実は皆、子供の頃には魔術の素養があったのかもしれない。

 作業中、問題がひとつ発生した。布の上に正円を描く方法がない。魔法陣は正円で描きたい。だ円になってしまうと魔法陣っぽさが無くなってしまうのではと思い、正円を描く方法を模索した。小学校にあった黒板に大きな円を描くためのコンパスが欲しいと人生で初めて思った。

 

 結果からいうと、協力してくれていた友人の知恵を利用した。糸と軸を利用して円を描く方法である。布に糸をつけたペンを立て、それを円の中心とし糸を半径として弧を描くのだ。建築関係で働いている友人曰く、仕事でも似たような方法を使う事があるらしい。持つべきものは建築関係の友人である。

 

 魔法陣と言えば魔術、魔術といえばルーン文字ということで、外周のサークル部分にはルーン文字を描き込んだ。ルーン文字をチョークで書いていくと、なかなか魔術っぽくなっていく。しかし何を書けばいいのかわからなかったため、ルーン文字で自らの名前を刻んでいった。

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こちらが私のハンドルネームのアルファベット→ルーン変換、なんとなく読めなくはない気がする。

 そしてようやく魔法陣が描き終わった。時間にして三時間近くだろうか。あとはピザを然るべき手段(呼べば来るという点でもピザと悪魔は同じである)で呼び出して完成である。それでは、完成品を見てもらおう。

 これがピザ召喚魔法陣だ!

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 どうだろうか、この神々しい、いや禍々しいピザの姿は! その光景はいわばピザのサバト、カロリーの黒ミサ、小麦粉の夜宴だ。中央に鎮座した"紅き円盤"はまるで邪教が崇め奉るアーティファクトに違いない。こうしてみると、このピザをもたらしたピザハットが邪術師(ウォーロック)の集団に思える。

 

 突然だが、ピザには魔力が秘められていると私は考えている。だってそうだろう、こんなにも蠱惑的で中毒性のある食品が何故合法で存在しているのか? ピザは魔力を秘めているからだ。魔法陣の中央に配置しても何の違和感もないのがその証拠だ。今回、その神秘の一端を垣間見た気がする。

 

 最終的にこのピザは食べたが、今まで食べた中で一番荘厳なピザだったのは間違いない。HPだけではなくMPも回復していたはず。メラくらいなら唱えられそうだ。

 

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 こちらがピザのない魔法陣の画像だ。なかなか"らしさ"が出たのではないだろうか。魔法陣の周囲には燭台を配置し火を灯している。この記事を読んで魔法陣を作成する諸兄も屋内での火の扱いには十分注意してほしい。総合して、悪魔を呼び出すのよりは簡単な儀式だったが、なかなか大変な作業だった。一緒に作業してくれた友人には感謝、地獄に落ちるときは一緒だ。

 

 もともとこれは"サバト"を開催しようと始まった一連の工作だったのだが、想定より魔術的な雰囲気が再現され「魔」に一歩近づけたのではないかと感じた。これもピザの持つ魅力、いや魔力によるもの。もし悪魔を呼び出してしまったらお茶ではなくピザを出そう。ベリアルには特うまプルコギ、アスタロトには炭火焼ビーフか。(注1)

 

 それでは今回の記事はここまでだ。さて、今週末はどのピザを呼び出そうか。

 

 

 

(注1:特うまプルコギはピザハットだが、炭火焼ビーフドミノ・ピザのメニューだ。召喚するときはゆめゆめ注意されたし)

 

Twitter:caesarcola